朝鮮総督府鉄道の貨車

鮮鉄の貨車の形式称号規程

貨車の形式称号に使用される記号は、満鉄との類似点が多い。『(1)車種を表す記号+(2)型式記号』で表記され、狭軌用であれば先頭にこれを表す補助記号「ナ」が、手ブレーキ装備車であれば末尾にこれを表す補助記号「ブ」が付加される。形式及び車両番号の表記方法は下表の通り。

車両番号の表記法(新規程)
記号意味
シブ4002レーキ付き有蓋車4番目の形式、4002号車。
ナト706狭軌(ロー)用無側車2番目の形式、706号車。

上記に示した規程は昭和11(1936)年時点のものであり、昭和15(1940)年時点でも引き続き使用されていたとみられる。一方、それより前の昭和4(1929)年時点では表記法が異なっており、下記のように表記された。ここでは、1936年頃の規程を「新規程」、1929年頃の規程を「旧規定」と名付けて区別する。

車両番号の表記法(旧規程)
記号意味
ス1水槽車1号車。
ワエ312アブレーキ付き有蓋車312号車。
トブエ236レーキ・アブレーキ付き無蓋車236号車。

新規程では1~10を表すイ~チの「型式記号」が表記されるが、旧規定には存在しない。逆に、新規程にない記号として「オ」と「エ」があり、それぞれ「大形」と「空気制動機(エアブレーキ)付き」を表していたものと推定される。なお、新規程では基本記号の後ろにつく記号を小文字で表記していたが、旧規定では同じ大きさで表記される。

(1)車種を表す記号(基本記号)

1文字目(狭軌用の場合は2文字目)は基本記号とよばれ、車両の種類を表す。比較のために満鉄式と省線式の記号も併記した。なお、「非常車」は満鉄では装甲車両あるいは戦闘用車両を示すが、鮮鉄では救援車のことを示す。

基本記号(新規程)
記号満鉄式省線式車種由来
有蓋車Wagon(ゴン)
家畜車牛(シ)
(ホ)冷蔵車冷蔵(イゾウ)
通風車通風(ツウウ)
車掌車緩急車(ンキュウ)
ユキ雪掻車雪(キ)
(ヒ)非常車
(救援車)
非常(ジョウ)
無蓋車Truck(ラック)
無側車
(長物車)
(大物車)
Timber(ンバー)
(ホ)石炭車石炭(セキン)
鉱石車鉱石(コウキ)
小形無蓋車小形(ガタ)
水槽車水槽(イソウ)
石油槽車油(ブラ)
重油槽車Oil(イル)、重い(モイ)
硫酸槽車硫酸(ュウサン)
基本記号(旧規程)
記号車種
有蓋貨車
緩急貨物車
家畜車
チク家畜車
無蓋貨車、無側車
石炭車
水槽車
小形無蓋車

車種が存在するものは、新規程と基本的に同じであるが、車種の呼称がやや異なる。旧規程では、家畜車は牛(ウシ)に由来する「ウ」と家畜(カチク)に由来するとみられる「チク」の2種類が存在するが、新規程には「チク」がみられない。また、無蓋貨車(無蓋車)と無側車は区別せず同一の記号「ト」を使用している。

(2)型式記号(新規程のみ)

記号番号由来
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10

明治32(1899)年、朝鮮初の鉄道である京仁鉄道での最初の貨車(米国製)組み立ての様子。

朝鮮総督府鉄道局 編『朝鮮鉄道史』第1巻,朝鮮総督府鉄道局,昭和4. 国立国会図書館デジタルコレクション (参照 2024-06-07)

有蓋貨車

濡れを嫌う貨物を輸送するために屋根や覆いのある貨車であり、2軸ボギーの木造車が多く使用された。鉄道開業当初は製や米国製や日本製を輸入・組立していたが、鮮鉄草梁工場や竜山工場などでの製造が可能になり、内製化が進んでゆく。また、米国より中古で購入した車両も存在した。槽車(タンク車)は省線(後の日本国鉄→JR)と異なり、積荷ごとに車種が細分化されていた。

旧規程

記号車番荷重製造・落成備考
1、2、6~9、11、14、16、17、19~2620t1905年組立。米国製。
27~4226t1898年組立。汽車会社東京支店製。
ワエ57~11626t1905年組立。汽車会社東京支店製。
ワブ47~56、117~12726t1903年組立。アメリカン・カー・アンド・カンパニー製
ワエ132~211、282~33126t1907年落成。草梁工場製。空気制動機付き
ワエ42~281、332~44626t1910年落成。竜山工場製。空気制動機付き
ワエ447~44926t1913年落成。草梁工場製。空気制動機付き
カブ1、1、3~5、10、12、13、15、1820t1908年。竜山工場・草梁工場にて有蓋貨車より改造。手用制動機付き
カブ43~4622t1898年アリソン・カンパニー(米国)製。手用制動機付き
カブ128~13122t1905年組立。汽車会社東京支店製。有蓋貨車より改造。手用制動機付き
カブ212~23126t1907年組立。竜山工場・草梁工場にて有蓋貨車より改造。手用制動機付き
カブ232~24126t1910年組立。草梁工場製。有蓋貨車より改造。手用制動機付き
1~2022t1913年草梁工場にて改造。米国の中古有蓋貨車。
チク21~2422t1910年落成。草梁工場製。
1~414t

貨物緩急車カブ44号車。明治31年7月アリソン・カンパニー(W.C. Allison and Co’s.か?)製。荷重22トン。有蓋貨車より改造。

朝鮮総督府鉄道局 編『朝鮮鉄道史』第1巻,朝鮮総督府鉄道局,昭和4. 国立国会図書館デジタルコレクション (参照 2024-06-07)

新規程

形式車番荷重備考
1~
101~
22t1~、101~は、普通貨物と流動貨物を混載できる特種貨車。
301~
401~
601~
30t301~は普通貨物と流動貨物を混載できる特種貨車。
1019~30t
サブ30t
チブ701~30tチブ701~は長尺物と潤大貨物を混載できる特種貨車。
シブ4001~
5001~
30t
15t南朝鮮鉄道買収車
15t南朝鮮鉄道買収車
1~
21~
22t
291~22t
シブ30t
1~18t鮮魚・鮮肉・生果・野菜等の腐敗しやすい貨物に使用。外部塗装は黄色。
1~14t飲用水・汽罐用水輸送用。
ニブ30t
30t
イブ30t
イブ30t
1~
105~
201~
301~
15t
401~
441~
20t
451~
461~
501~
20t
601~20t
1~30t救援車
11~22t救援車。ウ形を改造
15t形を改造
ユキイブ1~ラッセル車
黄河橋梁架設作業に動員された鮮鉄貨車の写真

1938(昭和13)年1月、日中戦争の戦地となった北支方面で黄河橋梁の架設作業に使用されている鮮鉄の有蓋車。形式はシブ形と推定される。同地には満鉄の貨車や内地の鉄道省から供出された9600形蒸気機関車など、各地からかき集めた車両が使用されていた。

華北交通アーカイブ(ID:3604-010133-0)より

鮮鉄向けアンモニア冷凍機付き冷蔵車の図面
鮮鉄向けアンモニア冷凍機付き冷蔵車の形式図。画像:日本機械学会 編『機械工学年鑑』昭和18年,日本機械学会,昭和16-19, p.313. 国立国会図書館デジタルコレクション (参照 2024-06-13)
鮮鉄向け冷凍機付き冷蔵車の内部写真
鮮鉄向けアンモニア冷凍機付き冷蔵車の車内。画像:日本機械学会 編『機械工学年鑑』昭和18年,日本機械学会,昭和16-19, p.290. 国立国会図書館デジタルコレクション (参照 2024-06-13)
『冷媒装置は川崎重工業KM-N型であり、冷媒としてアンモニアガスを使用し、車軸からVベルト歯車および電気接手によって圧縮機を駆動する構造となっている。冷凍方式は直接膨張式で冷凍能力は基準状態において約12冷凍トンの場合室内温度を零下15度に保つ由である。』 (『機械工学年鑑』昭和18年, p.289より)

無蓋貨車

無蓋貨車は露天での保管が可能な貨物を輸送する貨車であり、車体は平板状あるいは天面のない箱状である。前者は長尺貨物の運搬に適しているため、省線(後の日本国鉄→JR)では長物車と呼ばれるが、満鉄や鮮鉄では無側車とよばれた。重量貨物用の車両を省線では大物車(記号:シ)と呼ぶが、満鉄および鮮鉄ではこれらを無側車に含める。後者は省線と同じく無蓋車と呼ばれる。石炭や鉱石を運ぶ専用貨車はそれぞれ別記号で区別される。省線ではホッパ車に区別されるような、床面が山形や漏斗状で開口部を有し、側面や底面から荷おろしをする車両も存在する。ほとんどは2軸ボギー車だが、小形の2軸車も存在し、小形無蓋車(記号:コ)に分類される。小形無蓋車は鹵獲車を出自とし、日露戦争によって東清鉄道から取得されたものだと考えられる。

旧規程

記号車番荷重製造・落成備考
トブ3、5、7、26、34、48、78、135、145、155、171、190、231、261、26722t37年組立。米国中古車。無蓋貨車。3枚側付。
トブトブ1、15、19-20、23、31、23、31、33、49~53、57、58、63~65、73、78~80、92、95、97~99、103、113、129、133、136、139、141、147、150、154、159、165、180、183、187、189、191、192、194、195、199、205、206、210、212、218、220、222、226、233、242、260、265、268~26922t38年組立。米国中古車。無蓋貨車。2枚側付。1912年時点で71両。
6、43、44、46、59、62、67、101、110、128、134、158、164、176、193、201、214、249、251、252、254、256、25722t38年組立。米国中古車。無蓋貨車。2枚側付。1912年時点で24両。
トブ362、365-370、386、38726t36年組立。汽車会社製。無蓋貨車。2枚側付
トブ373-385、40726t37年組立。アメリカン・カー・アンド・ファンドリー製。無蓋貨車。2枚側付。1912年時点で14両。
トブ389-398、400-402、40822t32年組立。アリソン・カンパニー製。無蓋貨車。2枚側付。
737-74626tT5年落成。竜山工場製。無蓋貨車。2枚側付。
/コブ1-5、7-292、301-35110t1906年。無蓋貨車。鹵獲車。手用制動機付。
トオエ150t1915年落成。竜山工場製。無側車。空気制動機付き。3軸ボギー。
トブ9、13、17、42、60、76、81、85、117、118、126、167、207~209、216、223、235、244、264、265、269、272、281、284、286、22t1904年組立。米国中古車。無側車。
トブエ236ほか?無側車。
タブ1~30、51、53、54、56、58、59、65、66、74、82、88、92、9326t1902年汽車会社東京支店製。手用制動機付き。
タブ31~4826t1906年汽車会社東京支店製。手用制動機付き。
49、50、52、55、57、60~6322t1910年。竜山工場にて改造。米国中古車。手用制動機付き。
※竜山工場で改造されたタ49以下9両は手用制動機付きのため、本来「タブ」となるはずだが、「タ」となっている。

新規程

形式車番荷重備考
イブ1~22t工事用
130~22t
ニブ55~
101~
186~
22t
230~
317~
409~
30t
サブ301~
361~
30t
1120~30t
シブ1001~
1501~
1613~
30t
ナブ501~30t
22t
イブ22t
231~
201~
30t
ニブ30t
サブ301~
351~
30t
1001~50t長さ12m。大重量ものもや潤大な貨物の運搬用。
コブ501~50t長さ20m。6軸ボギー。
ロブ大物車(底床車)。6軸ボギー。
8~22t
イブ1~22t
シブ201~
401~
501~
30t
サブ301~30t底開き式
コブ側面・底開き式
イブ1~30t内部山形底開き式
ニブ51~30t底開き式
80~10t2軸車。日露戦争時の鹵獲車。
イブ38~10t2軸車。日露戦争時の鹵獲車。
15t

狭軌用

狭軌用貨車の形式称号は、標準軌用の記号の先頭に狭軌(ローゲージ)用を示す「ナ」を冠する。軌間は762mm。私鉄の国有化(買収)により編入された車両が多い。

新規程

形式種類車番荷重備考
ナワ狭軌有蓋車101~
501~
5t2軸車。
101~は朝鮮鉄道編入車。東海中部線配属。501~は図們鉄道編入車。東海中部線及び价川線配属。
ナワサブ狭軌有蓋車3001~15t2軸ボギー車。白茂線用。
ナカ狭軌車掌車
(無蓋緩急車)
620~5t2軸車。図們鉄道編入車。東海中部線配属。
ナト狭軌車掌車121~
704~
5t2軸車。121~朝鮮鉄道慶東線編入車。東海中部線配属。704~は図們鉄道編入車。
ナトニブ狭軌無蓋車101~
730~
5t2軸車。101~朝鮮鉄道慶東線編入車。東海中部線配属。730~は図們鉄道編入車。
ナトサブ狭軌無蓋車1001~15t白茂線用
ナチ狭軌無側車101~104
801~
5t東海中部線配属。
101~104は朝鮮鉄道編入車。
801~は図們鉄道編入車。
ナチサブ狭軌無側車2001~15t白茂線用
ナチシブ狭軌無側車2101~15t車長10m。「工」型車体。
ナチコブ狭軌無側車2201~15t車長15m。「工」型車体。

参考文献